スペイン風邪についての名古屋新聞の記事(名古屋空襲研究会)

「スペイン風邪」と通称されるインフルエンザ・パンデミックは、第一次世界大戦中の1918(大正7)年春から戦後の1920(大正9)年春かけて起りました。ロシア革命がおこり、シベリア出兵には名古屋の第三師団も参戦していました。

日本では、米騒動が起こり、社会問題が表面化し、普選運動が活発となって社会も政治も騒然とした中でした。当時の名古屋は、大名古屋の建設に向けての始動の時期でもありました。当時の名古屋新聞(中日新聞の前身)の記事から、「スペイン風邪」(記事では「流行性感冒」)について記事をひろってみました。

名古屋空襲研究会

第1回流行―大正7(1918)年秋~大正8(1919)年春


大正7年

【10月24日付】

・全国的の流行性感冒ついに本県を襲う、工場を侵し学校を荒し休業休校相次ぐ。出征地また猖獗(しょうけつ)(「あれくるう」の意)、シベリアの流行感冒目下各野戦で予防に腐心。

 

【10月25日付】

・愛知病院酒井内科部長語る、今年はスペイン風邪(かぜ)、変化が鋭く一名稲妻風邪。

・内務省から全国へ風邪の警戒通牒。いまやスペイン風邪は日本国中を風靡。

 

【10月26日付】

・感冒軍隊(第3師団留守部隊)を侵す。外出禁止。

・内務省、愛知県に防疫官を急派。

 

【10月27日付】

・文部省からも心配の風邪通牒。各地方庁、直轄学校長に対し、必要な処置を。

・矢作小学校に200余名。鳥居松の小学校では、職員倒れて休校、枇杷島小学校職員も感染、なお休校。

・市内小学約1割の患者、那古野小学は64名、風邪をひいた先生が出勤して生徒に感染、各学校医巡視。

 

【10月28日付】

・県下、学校・工場のみで患者1000名、その他一般家庭も少なくない中、内務省から感冒調査の防疫官来る。

・防疫官談、今回のスペイン風邪は真に珍しい流行性、インフルエンザ菌を発見せぬ、強制的に取り締まる伝染病の中に加えることはできない。

・名古屋郵便局、各課を合わせて六十余名。

・ガス会社、多数職工流行感冒のため、ガスの噴出量減少。

 

【10月29日付】

・流行性感冒猛威を振い、名古屋市内小学校ほとんど全滅、市予防法注意書を配布して大警戒。(以下注意書内容)

◇予防法◇

1.群衆中に立寄らざること

2.夜間外出を禁ずること

3.友人知人その他罹病者の家に立ち寄らざること

4、運動場に散水を励行すること

5.運動場その他において唾は唾壺に吐くこと

6.うがいをすること

◇注意◇

1.流行性感冒かかった職員・児童の登校を禁止すること。

2.一学年中3分の1以上の罹病者あるときは、児童の登校を停止すること。

3、児童の家庭中流行性感冒で就床するものあるときは、その児童の登校を停止すること。

・郵便局員半数倒れる。

 

【10月29日付】

・スペイン風邪の治療法(略)

 

【10月30日付】

・名古屋新聞社主催の明日31日に鶴舞公園で開催予定の秋季運動会延期。

・原因わからぬスペイン風邪、問題の双球菌は身体の弱点に附けこむ曲者。

・いよいよ全市小学校休校か、少なくとも千人に近い患者。

・[市井評論-要旨]スペイン風邪の流行は、ついに産業の発展を妨げるに至った、中流・下流の日給を施される者は苦痛よりも悲惨である、各工場は困難に陥っている、児童は悲惨。県市当局は、このスペイン風邪蔓延に対して、果たしてどれだけの予防をしたか、ただ一片の注意書を小学校に発したのみ。

・悪性な感冒の退治策(下の写真)

 

【10月31日付】

・名古屋俘虜収容所のドイツ人死者1名、感染者18名。

・憂慮に堪えぬ感冒猖獗(しようけつ)、内務省からまた急性肺炎併発し死亡率高めている現状に鑑み、現状報告と徹底的防疫を講ずべきの通牒。

・製糸場警戒、犬山へも侵入。

・西春日井郡を襲う、休業学校続発、六郷小学校100余名、臨時休校。

・千種小学校でも、一週間休校。

・愛電本線半時間間隔、20名襲われる。

 

【11月2日付】

・岡崎市恐慌、患者続々発生、各校以前休校。

・東春日井郡篠木小学生死亡、風邪から心臓麻痺。

・勝川小学休校、203人たおれる。

・西加茂郡地方、小学欠席者続々。

・遂に裁判所襲われる、事務の故障大憂慮。

 

【11月3日付】

・内務省加藤防疫官談―此前の世界的感冒よりは死亡率少ない、一度かかれば免疫性となるから流行期間は長くない。

・古知野また患者続出、学校も工場も、町内一戸三人平均。

・一宮町の風邪,祖父江小学校生徒300余名罹病、一時休校。

・刈谷町、小学生の罹病多く、休校断行の協議中。

・津島三中休校、200余名たおれる。

・西春日井郡にても休校の届出頻々。

・第三師団にても外出禁止、市内の諸隊では今の処数十名。

・名古屋地方裁判所、区裁判所、欠勤者続々、民事のごときは期日変更。

・女学校、商業学校にも患者続々(市立第一高女600名にたいして217名

第二高女も全生徒380名のところ、100余名)。

 

【11月4日付】

・世界風邪の一撫で、感冒を背景にした種々雑多の社会劇。

 

【11月5日付】

・県防疫員死亡。

・横須賀小学校全校の3割患者。

・西尾町34名死亡、西尾署外勤巡査全滅。

・碧海郡大浜町2名死亡、小学校350名欠席、5日間休校。

・中島郡奥町小学校生徒260名患者、五日間休校。

・第三師団700余名患者。

・益々増加の鉄道員患者。

・名古屋市小学校、5日の休校解除以降も、三分一以上の患者の場合は数日間の休校予定。

・流行風邪が福の神と崇められる、薬屋、按摩。

 

【11月6日付】

・島村抱月氏逝く、感冒から肺炎を併発して、ついに芸術倶楽部階上の一室にて永眠した。松井須磨子昏倒。

 

【11月8日付】

・出征兵士の健康、今は流行性感冒の最盛期。

・大演習参加師団の罹病者、六個師団で1700余名。

・多治見西ヶ原廓、三娼妓死亡。

・桑名東洋紡分工場休業。

・犬山町小学校休校。

・名古屋市内学校の死亡者、生徒と教員で18名。

・もう頂上を通りこした市内中等学校。

 

【11月9日付】

・感冒が原因して鳥羽の大暴動。鳥羽造船所の職工200名、鳶口をふるって全町を襲う、奸商の暴利を征伐すべく。

突発原因は感冒薬、法外な高値が暴動の動機。(下の写真)

 

・米の値段段々下がる、なかなか下げぬが例の小売り相場も、公設市場に押されて下落せん。

・鶏卵1個10銭、感冒患者や患者の食用に増加で騰貴、氷嚢も牛乳も馬鹿高。

・愛知病院の入院料値上げ。

 

【11月10日付】

・内務省田村防疫官談。感冒の免疫土地、早く流行した土地は早く終息、日本全人口の半分はかかった。名古屋・豊橋は下火だが、全国は今が絶頂。

・本県内の患者総数7万2000余人。

 

初発より10月末までの学校各団体の患者統計。(上の写真)

 

【11月12日付】

・11月1日から7日間に三百人感冒で死んだ。

・中区と東区との公設市場15日より、西区と南区とは20日頃から。

 

【11月13日付】

・まだまだ油断大敵、死亡の多い流行性感冒、11月始めより県下数百名か。

・衛生試験所製造の医薬品を官営こうすれば、薬品は廉価になる、国民保険上の急務。

 

【11月15日付】

・金城師団の感冒、岐阜に100名、津に200名。

・名古屋市内各小学校、全部開校。休校中児童32名死亡。

 

【11月16日付】

・感冒死亡は増加、まだまだ油断ならぬ。11月に入ってから、

県下学生数38万8178人中、患者数万7275人、約25%。

工場その他の団体、9万6111人中、患者1万6344人17%。

10月の統計よりその率が増加。

死亡率も、学生81人、工場団体67人と増加。

・鳥羽はなお厳重警戒中。

 

【11月20日付】

・悪性感冒の病原争い。

北里研究所・内務省細菌研究所・長崎医専等・警視庁は、バイフェル菌説。

京都帝大藤波教授・東大石黒教授は、肺炎菌に似た双球菌説。

大阪医科大学佐多福原両教授は、肺炎双球菌説。23日衛生学総会で論戦。

 

【11月22日付】

・半月に死者647名、9割は皆感冒患者八事墓地発展策。

・囚人2割感冒に罹る、5万中1万、死者18名。

 

【11月26日付】

・長らく休会していた県会再開。

・日本衛生学会、感冒病原争い北里研敗れる。病原菌の確認を否定。

 

【11月30日付】

・名古屋市内における伝染病患者は、医師との結託により隠蔽されるものが、非常に多い。

 

【12月4日付】

・千代田生命小山氏談、小保険会社の濫設防止の必要。

 

【12月6日付】

・県衛生課調査、流行性感冒はもう本当に終息、先月10日から患者数減少。

県下小学校児童総数27万7828人に対して、

先月10日から20日までの患者3万5249人、死亡者132人、

同月20日より30日まで、患者1万1551人、死亡者45人、

その他団体総数8万9272人に対して、

先月10日より20日までの患者8065名、死亡者62人。

20日より30日までの患者1975人、死亡者11名。

 

【12月7日付】

・市衛生課談、まず終息したと言っていいでしょう。一時大賑わいをした火葬場のほうも以前の状態にもどっています。

 

【12月9日付】

・城東病院拡張案の前途。

・第三師団従軍記、後続部隊にはげしかった戦地のスペイン風邪。

第2回流行―大正8(1919)年暮~大正9(1920)年春


大正8年

 

【12月7日付】

・県衛生課、内務省通達により毎月2回県下も流感感冒調査の報告を各警察署

に指示。この内務省通達以前においても県においては調査をしており、11

月末までは流行性感冒の患者発生の報告なし。

 

【12月13日付】

・第三師団管下の津連隊に感冒、その他の隊は幸いになし。

・日本陶器新募集の職工30人のうち19名感冒に、流行性感冒?

 

【12月16日付】

・豊橋歩兵連隊初年兵、流行性感冒猖獗、すでに100名近し。(下の写真)

肺炎と変症して喀血、瀕死の状態のものもあり。

・感冒全国師団に及ぶ、罹病者初年兵が3分の1。

 

【12月18日付】

・兵士の流行性感冒は既に4200名に及ぶ。

 

【12月24日付】

・津連隊の感冒1日4,5名死ぬ。非常に悪性で伝染甚だし、急に終息の見

込み立たず、名古屋歩兵六連隊、疑似流行性感冒患者約10名を名古屋衛戍津病院に入院せしめる。守山歩兵三十三連隊、面会謝絶。

 

【12月26日付】

・市内小学校冬期休暇、1月7日まで。

・風邪薬の中毒で同居人の死。

・大景気の筋が通る広小路、依る人波立つ年越し気分。

 

【12月27日付】

・第三師団全部の兵隊さん、楽しい正月でも外出できず。恨めしい風邪を恨

んだ。

・風邪予防のポスターを県下1500の各工場へ配布。

 

【12月28日付】

・津連隊の終息はいつか、初発以来41名の命を奪った感冒。

六連隊また疑似患者発生。

 

【12月30日付】

・熱田服部紡績工場、13日頃から流行性感冒の患者発生。

男女工員3500人が密集し、日々数十名の新患者。

医員2名の新たに医師3名を雇入れ、患者を工場内の隔離病室に収容していたが、35名死亡し、帰省する工女続々、運転機械3分の1となる。

 

大正9年

【1月7日付】

・近く市民に感冒予防注射、目下各署で患者調査中、7日にまず係員に注射。

・流行感冒にたたられ、営内にくすぶって兵隊さんおおあくび正月。

・豊橋騎兵第二十六連隊、流行性感冒恐さに井戸へ投身。

・ウラジオ警備の吉田中佐感冒より肺炎にて死亡。

 

【1月8日付】

・流行性感冒に興業物閉鎖の大英断か、名士ひんぴんとっして倒れる、恐怖時代の東京の感冒。

・全国の師団の感冒状況、患者1万1941名死亡者547名

・第三師団患者355名中死亡者36名。

・感冒軍艦を止める、利根日進の出港見あわせ。

・感冒予防注射液の欠乏(大阪)。

・衛生総連合会が主催で、生活改善の博覧会。

・晴天続きの三日間約百万。

 

【1月10日付】

・陸軍省医務局衛生課、感冒患者の初発以来の累計1万3262名死亡者604名で5%。最も多いのは近衛師団で患者の累計1912名死亡者93名。

 津の五十一連隊は患者430名死者44名で約10%で猛烈を極めた。患者は初年兵266、二年兵以上146にて、初年兵は2倍、死亡は、初年兵38二年兵以上6で、約6倍。歩兵六連隊は、死亡者累計45名で少ない。

・第2回流行性感冒調査、12月16日より31日まで、県下患者3160人

 死亡者109人、市内患者884名。死亡者57名。

・山縣県衛生課長談、感冒は漸次増加しつつあるから一般人士の注意を望まねばならぬが、県下の状況は驚くに足らぬ、医者にかからぬ程度の患者が大部分をしめ、たいていは売薬で治療している。工場や学校などには一向患者がない。

・初年兵多い流行性感冒、その家庭では大分不安。

【1月13日付】

・市井評論―流行性感冒について。

・油断は出来ぬ人混みへ出るな、市内学校の流感幸いに緩慢。

・なにゆえマスクを為さぬ、家族に罹病者ある事を忘れるな。

 

【1月14日付】

・市井評論―流行性感冒と小学児童。

・この頃の日和続きは流感にあまり悪くない天候だ、雨になって流行したら大変と市医師語る。妊婦は、特に注意、妊娠中絶や死亡が多い。

 

【1月15日付】

・感冒に対し此上は断乎たる処置をとる、国庫で補助いても、各県令で強制的に予防措置をとるー内務省衛生局長語る。

・東京市内では警官先ずマスクをあて、活動写真で一般に予防の知識を養成する。

・名古屋全市の小学児童に、マスクをさせることに市学校医会議で決定。

 家庭で制作し児童にかけさせるよう奨励。

・市で希望者に注射?市衛生課ワクチン1万人分を伝染病研究所・北里研究所に実費をもて下付されることを要請。

・市衛生課長語るー流感予防のワクチン注射は、いわゆる試験時代を免るるあたわず、しかして現予防手段として推奨する。

 

【1月17日付】

・県衛生課長語るー知事から流感予防諭告、僕はマスク万能論者(詳細別紙)

 

【1月18日付】

・感冒発熱の際むやみに解熱薬を用いるな。

 

【1月20日付】

・軍医部の机上には流感調査の書類の山、第三師団下流感状況。

 十二月中感冒性疾患総計274名、新年10日mでの新患者53名

・市内でも南区に流感患者が多い、本年に入って43人、どうも衛生思想に欠けている。(下の写真)

 

【1月21日付】

・流感死亡者は、妊娠期の女に多い、それも働き盛りの。

・流感予防の為全市小学校短縮授業、現在の始業九時を十時に。

 

【1月22日付】

・市内の一医師は語るー流行入院患者は市部より郡部に多い。

 

【1月23日付】

・市衛生課長語るー博士等の研究発表で予防注射は、確実無害有効。

 

【1月24日付】

・市井評論―流感の予防。

 

【1月25日付】

・名物知多万歳が流感の媒介者、知多郡に感冒者続出しついに学校閉鎖となる。

・流行性感冒を日々調査せよ。

 

【1月29日付】

・長尾博士談、流行感冒は今後どうなる、最後の予防に努力せよ。

 

【2月7日付】

・流感猶やまず、名古屋市内の1月以来の死亡者500余名。

 

【2月13日付】

・予防注射をせよ、名古屋市内流感患者発生日々10余名まだまだ安心できぬ。

 

【2月22日付】

・福井県大野郡北郷村―感冒予防の注射から2名死亡。全村民注射を拒絶。

 

【2月27日付】

・名古屋市内流感死亡数、1月1日より2月25日まで710人。

 最近5日では、21日9人、22日9人、23日5人、24日12人、

 25日5人、1月下旬から2月上旬の1日25,6人に比すれば小康。